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第32話 檻の中

작가: あおはな
last update 게시일: 2026-03-28 14:00:05

 笑い声が、社の奥でひどく静かに響いた。

 それを合図にしたように、空気が変わる。

「……っ!」

 篝が聖刀へ手をかけた瞬間、床に貼られた札が一斉に赤く燃え上がった。

 火ではない――けれど火に似たものが走り、畳の上に複雑な紋を描く。

 社全体が生き物のように脈打ち、壁も床も、天井から垂れた布も全てが一斉に篝へ牙を剥いた。

「篝っ!」

 結城の叫びが飛ぶ。

 宮守が札を投げるが、白い紙片は途中で見えない壁に弾かれ、空中で焼け落ちた。

 これは、結界だ。

 しかも前とは比べものにならないほど濃い。

 篝は反射的に灯へ駆け寄ろうとした。だが足元から黒い靄が這い上がり、足首へ絡みつく。

 冷たくぬめるような感触に全身が総毛立つ。

 振り払おうと身を捩ったその瞬間、背後から伸びてきた腕に腰を強く引かれた。

「――捕まえた」

 耳元で落ちた声に、心臓がひやりと縮む。

 影月が、

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     笑い声が、社の奥でひどく静かに響いた。 それを合図にしたように、空気が変わる。「……っ!」 篝が聖刀へ手をかけた瞬間、床に貼られた札が一斉に赤く燃え上がった。 火ではない――けれど火に似たものが走り、畳の上に複雑な紋を描く。 社全体が生き物のように脈打ち、壁も床も、天井から垂れた布も全てが一斉に篝へ牙を剥いた。「篝っ!」 結城の叫びが飛ぶ。 宮守が札を投げるが、白い紙片は途中で見えない壁に弾かれ、空中で焼け落ちた。 これは、結界だ。 しかも前とは比べものにならないほど濃い。 篝は反射的に灯へ駆け寄ろうとした。だが足元から黒い靄が這い上がり、足首へ絡みつく。 冷たくぬめるような感触に全身が総毛立つ。 振り払おうと身を捩ったその瞬間、背後から伸びてきた腕に腰を強く引かれた。「――捕まえた」 耳元で落ちた声に、心臓がひやりと縮む。 影月が、こちらに目を向けていた。 気配もなく背後へ回り込まれていた。 篝が振り返るより早く、影月の腕は完全に篝を囲い込み、逃げ道を塞ぐ。 乱暴に締め上げるわけではない。 けれど、一度捕らえたものを二度と離すつもりはないという静かな強さが骨の奥まで食い込んでくる。「放せッ!」「嫌だ」 低く囁く声は、奇妙なほど穏やかだった。 それが余計に恐ろしい。 社の奥で、紅月が楽しげに笑う気配がする。 灯は祭壇の前で揺れるみたいに座ったまま、こちらを見ていた。 さっきまで見せていた柔らかな笑みは薄れ、代わりに苦しげな揺らぎが瞳の奥に浮かんでいる。「篝!くそ、離れろ!」 結城が結界へ体当たりする。 鈍い音とともに弾き返され、地面へ膝をつく。 宮守も即座に札を打ち込むが、今度は社全体がそれを拒むように低く唸った。「駄目だ、分断された……!」 宮守の声が苦く沈

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  • 血月の誓い 〜生贄の一族と吸血鬼の花嫁〜   第24話 灯の記憶

     その夜、篝はひとりで外へ出た。 宮守の隠れ家から少し離れた林の縁には、細い月の光がひっそりと落ちている。 昼間のうちは曖昧に押し込めていられた考えも、夜になると輪郭を持って浮かび上がってくる。 木々のあいだから吹き込む風は冷たく、湿った土の匂いがする。 けれど篝の胸の内側には、それよりもっと重く、逃げ場のないものが沈んでいた。 灯のことを考えない時間など、もうなかった。 今ごろ、あの子はどこにいるのだろう。 紅月のそばで、花嫁衣装のまま、あの虚ろな目をしているのだろうか。 それともほんの一瞬

  • 血月の誓い 〜生贄の一族と吸血鬼の花嫁〜   第23話 血月村の始まり

     社を出たあとも、篝の胸には香奈子の帳面に残されていた文字が重く沈んでいた。 あれは記録であると同時に、警告でもあったのだと理解した。 正気を保ったまま花嫁に選ばれ、少しずつ削られ、最後には自分が誰かも曖昧になっていく。 その過程があまりにも生々しくて、頁を閉じたあとも指先に冷たい感触が残っている気がした。 森の奥へ戻る途中、宮守は一度も振り返らなかった。 結城もまた黙ってついてきている。 枯葉を踏む音だけが、妙に大きく響いた。 昼のはずなのに空は薄曇りで、木々の隙間から落ちる光は白く、頼りない。

  • 血月の誓い 〜生贄の一族と吸血鬼の花嫁〜   第14話 血月の使者

    「……」 ほんのわずかな休息――もうすぐ朝日が昇る時間だった。 宮守の話では、少なくとも昼のあいだ、あの双子は表立っては襲ってこないらしい。「……本当、漫画とかでよく見る感じ。吸血鬼って昼は駄目なんだ」 乾いた笑いを漏らしながら、篝は自分の手を見つめた。 この手を伸ばしていれば、灯を助けられたのかもしれない。 どうしてあのとき、灯の手を放してしまったのだろう。 考えても答えは出ないのに、そのことばかり何度も頭に浮かぶ。 一

  • 血月の誓い 〜生贄の一族と吸血鬼の花嫁〜   第05話 闇の中の何か

     篝が霧を切るように駆け出した、その瞬間だった。 影月は抱えていた相楽を、まるで価値のない玩具でも捨てるかのように、無造作に放り投げた。「相楽ッ!」 叫びながら、篝は足を止めない。 だが、影月の冷酷な手から放られた相楽の体は、硬い地面に叩きつけられた。 鈍い音とともに、血の赤が広がる。 じわじわと地面へ染み込み、夜の土に吸い込まれていくその様子に、篝の胸がひやりと凍った。「な……っ」 すぐ近くにいたはずなのに。 もっと早く駆けつけていれば、助けられたのかもしれない。 そんな悔しさと、自分の無力さが、胸の奥で鈍く軋んだ。 一方、相楽を投げ捨てた影月は、赤い瞳をわずかに細め

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